新規事業へチャレンジするための損失回避バイアスへの対応法

コラム

1.はじめに

 ガソリンの需要が減少する中、日本政府は2035年までにガソリン車の新車販売は終了するとしています。よって、収益を維持拡大させるためにガソリンスタンドは、他店からガソリンの需要を奪うか、ガソリンに代わる収益源を模索する必要があり、どちらにせよ、これまでの取組みとは異なる「新たな取組み」を見出していかなければなりません。

 ですが、「新たな取組みが必要」という認識を持ちながら、そのような取組みに関わる行動を一向に起こすことのできない事業者は、バイアスが影響している可能性があります。バイアスとは「偏見」「歪んだ見方」を意味し、複数の種類があります。

 今回の記事では、バイアスのひとつ「損失回避バイアス」に着目し、その内容と克服方法について見ていきます。

2.「損失回避バイアス」とは?

 損失回避バイアスは、文字通り損失を回避するために発生するバイアスです。その実験として、参加者に以下の2つの選択肢を与え、どちらを選ぶか尋ねるものがあります。

A:100%の確率で100円がもらえる
B:50%の確率で200円がもらえるが、50%の確率で何ももらえない

「どちらかを選ぶんやで」

 選択肢Aの期待値は100%×100円=100です。これに対して、選択肢Bの期待値は(50%×200円)+(0%×0円)=100で、選択肢AもBも同じ期待値です。しかし、多くの参加者は選択肢Aを選びました。これは、もらえないという損失を回避し、確実な利益を得ることを重視する損失回避バイアスの影響によるものです。

 これが経営判断にネガティブな影響を及ぼした例をご紹介します。

3.バイアスがもたらした影響の実例

 「でんかのヤマグチ」は東京都町田市で50年以上の歴史を持つ家電販売店です。その歴史の中には、地価が安いこともあって、大手家電量販店の進出が相次いだ時期があります。同店は、最終的に6つの家電量販店に囲まれてしまいました。そして、大量仕入れによる安値販売で顧客を獲得しようとする家電量販店に対して、ヤマグチも顧客を失わないために低価格で対抗しました。

 結果としてヤマグチは、収益性が低下し、資金繰りに苦労するようになってしまいました。このように、家電量販店に価格で負けることを恐れて、採算度外視の安値販売を行った背景には、損失回避バイアスがあります。安値販売は短期的な効果はありますが、長期的に見ると経営を悪化させるリスクがあります。

「価格以外の価値を提供できたら『勝ち』やなあ」

 そこでヤマグチは、家電量販店の価格に追随するのではなく、自社の強みを活かした差別化戦略で窮地を脱しました。この復活へのプロセスは以下の記事を参考にしてください。
https://note.com/roadside/n/n505e7dccc5d5

 このように、損失回避バイアスは、誤った経営判断をさせてしまうリスクがあります。冒頭の新規事業に進出しない経営者は、その判断に損失回避バイアスが働いていないか検討する必要があります。そして、以下では損失回避バイアスの影響を最小化するための方策を述べていきます。

4.損失回避バイアスの影響を最小化するための方策

(1)損失回避バイアスの存在を認識する

 最初のステップは、損失回避バイアスが存在することを知ることです。そのバイアスの影響から逃れることができないとしても、そのバイアスを知っている場合と知らない場合では、影響の度合いが異なるはずです。

 そして、この記事をここまで読まれた方は、損失回避バイアスの存在を知ることはできていますが、そのバイアスからどのような影響を受けているかを認識しましょう。自分の思考パターンを分析し、リスクを過度に恐れていないかどうか、確実な利益を得ることに固執していないかどうかを確認しましょう。

「自分を見つめるんやで」

(2)小さな実験から始める

 新規事業への挑戦は、大きなリスクを伴うように思えるかもしれません。しかし、小さな実験から始めることで、リスクを軽減し経験を積むことができます。

 行政の中小企業支援策として、新規事業の計画を行政が審査する経営革新計画の承認制度がありますが(以下のリンク参照)、数百に及ぶ当該計画を読んでいくと、新規事業の立ち上げにあたりテストマーケティングを実施している事例は非常に多いです。
https://note.com/roadside/n/n34309572def7

 テストマーケティングとは、新しい商品やサービスを本格展開する前に、限られた範囲で実験的に展開し、そこで得たデータを商品や施策の改良・改善に活かすマーケティング手法です。

「実験から始めるんやで」

(3)客観的なアドバイスを得る

 損失回避バイアスを克服し、新規事業への挑戦を成功させるためには、専門家のアドバイスを求めることも有効です。地元の商工会や商工会議所、自治体の役所における支援窓口などへ相談をしましょう。窓口相談で対応できない場合は、専門家へ繋いでもらえることも期待できます。それを通じて、上記の経営革新計画を作成することも可能です。

「行政の支援策を活用するんやで」

5.まとめ

 損失回避バイアスは、克服することが難しい課題ですが、影響を最小化することは可能です。上記のヒントを参考に、正しい経営判断を心がけていきましょう。
https://www.roadsidekeiei.jp/

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