想像力が欠如したガソリンスタンドの店長がチャンスを逃す理由

　「あ、熱かったですか？」居酒屋の店員さんが私に言いました。その居酒屋で私は、ビールで喉を潤した後に日本酒を熱燗でお願いしました。

　ほどなくして出された熱燗を口に含んだ際に、私はお水をお願いしていないことに気付きました。私はお酒を飲む際は、お酒を一口飲んだらお水も一口というように、水を挟みながら飲みます。

　私からお水をお願いされた店員さんが発した台詞が冒頭の台詞です。おそらく熱燗を飲まないか、お酒自体を飲まない方なのだと思いますが、お願いした水を私はどのように使うと思ったのでしょうか。

　ここで見て取れるのは想像力の欠如です。現在、問題になっているセブンイレブンのスマホ決済システム7Pay（セブンペイ）がシステムの脆弱性を突かれ、不正使用されたことも想像力の欠如が原因でしょう。

　このように想像力は、顧客満足やリスク防止に大きな役割を果たします。今回のコラムでは、ガソリンスタンドにおいて店長の想像力の欠如がチャンスを逃す理由を見ていきます。

販売力抜群の新人パートタイマー

　あるフルサービスのガソリンスタンドに30代の主婦パートタイマーが入社してきました。ガソリン以外の商品、例えば洗車やタイヤなどを油外商品と呼びますが、彼女は入社して間もなく油外商品をバンバン売り始めました。

　彼女は、過去に車業界に在籍していたことはなく、油外商品に関する知識は貧弱でありながら、売れてしまうのです。このような部下を持った店長に想像力がある場合と、ない場合を以下で見ていきます。

想像力のある店長の行動

　想像力のある店長が彼女のような部下を持った場合「彼女がとっている行動の中には、他のスタッフも真似できる行動が含まれているはず」と考え、彼女の行動をつぶさに観察・分析するという行動を起こします。

　その結果、以下のことが分かりました。

　他のスタッフは、顧客であるドライバーと話す際に、窓を開けた運転席の脇でドライバーと同じ方向を向いて話しています。これに対して彼女は、窓を空けた運転席に座るドライバーと相対するような斜め前方の位置で話しています。
　よって、ドライバーは首をひねりながら会話をする必要がなく、話を長く続けやすい状況になり、関係性が深まりやすくなります。

　また、他のスタッフは、顧客の車の窓を拭く前に「洗車のご利用はいかがですか」と声掛けしますが、彼女は、フロントガラスの運転席側部分だけを拭いてから「洗車のご利用はいかがですか」と声掛けをしています。
　ドライバーからしてみるとフロントガラスの運転席側半分は綺麗なだけに助手席側半分の汚れが際立ちます。結果として洗車を依頼しやすくなります。

　彼女の販売行動の中には、彼女でなければできないこともたくさんあります。ですが、前述の立ち位置や、洗車の声掛けのタイミングなどは、他のスタッフでも実施することが可能です。よって、店長は他のスタッフへこれを徹底させることで、店舗の販売力を底上げすることが可能となります。

　これに対して、想像力が欠如している店長は以下の行動を取ります。

想像力が欠如している店長の行動

　主婦のパートタイマーである彼女は、ご主人や子どもと夕食を摂れるように、食材の買い出し、料理の時間なども考えて、夕刻前には退勤したいという要望を持ちます。また、週末はご主人や子どもと一緒に過ごせるように、仕事を休ませて欲しいという要望も持ちますし、採用面接の際も労使双方がそれに納得して採用しているはずです。

　ところが、想像力が欠如している店長は、すい星のように現われた彼女の時給を大幅に上げた上で、長時間勤務や週末勤務を求めます。なぜなら、彼女がシフトに入ってくれればくれるほど売れるからです。時給を上げたんだから、採用面接時の勤務時間や休日に関する約束は、少しは破ってもいいだろうと考えます。

　入社直後の彼女は店長からの要望を断ることが困難です。渋々応じていた彼女はある日、突然会社に来なくなりました。想像力が欠如している店長は、目先の利益だけを追ってしまい、彼女のワークライフバランスが想像できません。

　結果として貴重な人材を喪失してしまうだけでなく、店舗の販売力を底上げするチャンスも逃します。