自分が育てた部下が正しいプロセスで独立するということは、自分の育成手腕に自信を持ってよい、ということです。部下のスキルを向上させて、被雇用者にしておくことと部下の生き様を事業者へ転換させたことは社会的な影響度が異なります。
部下がそのような覚悟を決めるプロセスに、上司であるご自身が携わることができたのは、喜ぶべき話なのではないでしょうか。
今回のコラムでは、ある美容院経営者の悩みを通じて、人材育成について見ていきたいと思います。
「人材育成に意味があるのか?」
ある美容院経営者が発した以下のご相談に触れる機会がありました。
「これまで様々な新人、スタイリストを育ててきましたが、折角一人前のスタイリストになるまで技術などを教えても、顧客情報を盗んで私の店の近くに独立するなど、恩を仇で返されたことが多々あります。
また、せっかく育てても数年で独立のために辞められてしまうことも多く、人材育成に意味があるのか?と思います。他の経営者の方々は、どのような気持ちで人を育てているのでしょう?」
この経営者が考えるべきことは、人材育成の「意味の有無」ではなく、その「目的」です。これが明確かつ正しいものになっていないと部下の独立により、自分が被害者になってしまう可能性が高まります。
そこで、人材育成の目的を見ていきます。
なぜ人材育成をするのか
なぜ人材育成をするのか、つまり人材育成の目的が「部下に仕事を任せて遊びに行きたい」という私的なものだと、部下に独立されると困ります。経営者は遊べなくなるからです。
これに対して美容院経営者の人材育成の目的が「この街に美しい人を増やす」という公的なものだと、部下に独立されても経営者は被害者になり得ません。
特定の商業集積地へ消費者が行く確率を示したハフ・モデルによると、地域の集客力は店舗数にも影響を受けますので、街にもう1軒美容室が増えることは、他の街からこの街の美容院を利用しに来る方が増加することを意味しています。
また、自分が教えた技術がさらに広まり、それに磨きがかかることも期待されますし、競争業者が増えることから、新規顧客の集客策やその固定化といったマーケティングの施策が切磋琢磨されることも考えられます。さらに、同じ経営者として、悩みを共有したり情報交換をしたりすることも可能となります。
これらを通じて、人材育成の目的である「この街に美しい人を増やす」ことが実現されやすくなります。
つまり、私的な目的で人材育成をすると、独立した部下が加害者となり、独立された経営者が被害者となりやすいのですが、公的な目的で人材育成をすると、経営者も部下も、そして顧客も世間も、よりハッピーになることが期待できます。
ただし、まっとうな手段で独立していただく必要があります。前述の経営者の悩みにあった「顧客情報を盗んで」という点を考えてみたいと思います。
正しい独立のプロセスを指導する
顧客情報を盗んで商売をすることは、邪道です。そもそもの考え方が邪道ですから、その商売は繁栄するべくもありません。顧客情報を盗んで独立しようとする者を責めることよりも、結果としてそのようなお膳立てをする形になったこの経営者は、ご自身の育て方に根本的な間違いがなかったか、振り返ってみる必要があるでしょう。
正々堂々と商売できない人材が、自分の元から独立したことで、経営者が清々しているならまだしも、この経営者は、それを悔しがっているわけです。これは、自店のことや短期的なことのみに目が奪われており、公的かつ中長期的な視点が欠けていると言えるでしょう。
他社が欲しがる人材や独立できる人材を育てる
リクルート出身で現在Jリーグのトップを務めている村井満氏は、リクルートに在籍していた頃、人材育成に注力し、社外から引き抜きに遭うような人材を会社として支援するべく、そのような人材が退職する際に1,000万円を付与する制度を設けました。
社外に羽ばたく人材を多数輩出する事業者には、成長したい人材が集まりますので、退職されてもその事業者は、人材不足に陥る可能性は低くなります。
独立で部下に裏切られたと感じる経営者は、人材育成の目的が明確になっているか、まっとうな商売のできる人材を育てようとしているか、検討する必要があると思いますが、いかがでしょうか。
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