行動の意味を示して人を動かす

顧客情報あっての顧客管理

 昨日のコラムで車両ナンバーを活用した顧客管理について述べました。この顧客管理の前提は「顧客情報があること」ですので、店舗で働くスタッフ全員が、車両ナンバー情報や接客・購買内容といった顧客情報を記録することが重要となってきます。

 そこで、「記録しなさい」と指示を出して、全スタッフがすんなり記録をとってくれればよいのですが、必ずしもそうではない店舗も多いはずです。
 人は、これまでの取組みを変えられることに抵抗を覚えます。ベテランになればなるほど、この傾向が強いのは、これまでのやり方に慣れていて、新たなことに取組むには相応の労力が必要になるからです。

 これに対して、経営者・店長は、スタッフに比較すると店舗をより良くしようという意識が強い場合がほとんどですから、どんどん新しいことを取り入れようとします。つまり、経営者・店長とスタッフには店舗変革の意識に乖離があることを認識する必要があります。

その人は本当に「気が利かない」のか

 仮に、経営者・店長とスタッフが持つ店舗改革に対する意識の乖離がゼロになったとします。にも関わらず、スタッフが顧客情報を録らなかったら、意味がありません。意識の乖離があっても顧客情報の記録をたくさんとってくれれば良いのです。

 以前、ある経営者と人材の話になったときに、その経営者は「最近の若者は気が利かない」と言いました。話をさらに伺うと、その経営者は喫煙者だそうで、先日、事務所の机に向かって仕事をしていた際に、机から離れた場所に掛けている上着のポケットからタバコをとってきて欲しいと、そばにいたスタッフに声を掛けました。そして、スタッフは経営者の上着のポケットからタバコを取り出し、経営者に渡しました。

 その時、経営者は「タバコと言ったらライターと灰皿がないと意味がないだろう」と言ったのです。しかし、そのスタッフは、経営者はタバコを外に吸いに行くのだと判断したのかもしれません。ライターやタバコは経営者のデスクにあると判断したのかもしれません。このスタッフは非喫煙者でしたから、そもそもタバコとライター・灰皿の関連を知らなかったのかもしれません。気が利かなかったのではなく、知らなかっただけなのかもしれないのです。

価値観が違う背景

 1950年代~1970年代の高度成長期に働く親を見て育った世代は、仕事をすれば、毎年給料が上がり、いずれは役職が与えられ、定年まで勤め上げれば退職金がもらえる、という価値観を持って社会に出ましたので、ひとつの会社に長く勤務することにメリットがあるという認識がありました。よって、仕事を上司が教えてくれなくても、自分で仕事のやり方を学び、上司のやり方を盗んで成長し、ひとつの会社に長く勤めようとしてきました。

 しかし、1990年代のバブル崩壊以降に働く親を見て育った現在の若い世代は、仕事をしても、給料は横ばいか上がっても微々たるもの、ボーナスはカット、リストラという名のもと解雇もあり得る、という価値観を持って社会に出ましたので、ひとつの会社に長く勤務するメリットを感じていません。よって、仕事を上司が教えてくれず、嫌な思いをしたら、きちんと教えてくれる職場に簡単に転職するのです。
 「タバコを持ってこい、と言われたからその通りにしたら、怒られた」と理不尽さを感じたスタッフは程度の差こそあれ、簡単に会社に見切りをつけるのです。

その行動が持つ意味を伝える

 よって、タバコが必要な人にとってライター・灰皿が必要な理由を教えるのと同じで、今まで「顧客情報を記録しないという行動」を「顧客情報を記録するという行動」に変えるには、「顧客情報を記録しなければならない理由」をきちんと教える必要があります。

 例えば、以前のコラムで歩行者用信号は赤が上か、青が上か、という話題を取り上げました。正解は赤ですが、その理由は、見落としてはいけない重要なものを上に置くという考えに基づいているからです。
 青を見落としたら横断歩道を渡らないだけですので、身体に被害はありません。しかし、赤を見落としたら、渡ってしまいますので、通行車両に轢かれる可能性があります。よって、赤が上ということになります。

 また、車を運転される方で、駐車禁止の標識を見たことがない人はいないと思います。しかし、駐車禁止の標識を書いてください、と言うとほとんどの人が戸惑います。そして、○内に×を書く人、○内の右上から左下へ斜線を引くか、逆に○内の左上から右下へ斜線を引くかで迷う人、様々です。
 駐車禁止は、NOなのです。NとOを重ねたものが駐車禁止の標識なのです。よって、○内の左上から右下への斜線が正解となります。

 歩行者用信号が持つ意味、駐車禁止の標識が持つ意味をいったん知ると、同じ問題を出されても間違うことはなくなります。

 顧客情報を記録するという行動が持つ意味を知ることは、その行動の価値を認識するということです。人間は、意味のない行動は起こしたくありませんが、価値のある行動は積極的に起こそうとします。経営者・店長は、「なぜ、そうしないといけないのか」という行動の意味をスタッフに対して丁寧に説明し、人を動かしていく必要があります。

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