強みを見出し事業に活かす

強みを活かす

 どのようなロードサイド店舗でも強いところがあります。この強みを見出し、強化していくことが儲かる店舗にする第一歩です。しかし、多くのロードサイド店舗は自店の弱いところに着目し、弱みの克服に注力しがちです。

 大企業と比べて人・物・金・情報といった経営資源の質・量で劣っている中小企業が、弱みの克服に経営資源を投じると、多くの場合、従業員のモチベーションが低下し、店舗の活性化が滞りがちになります。

 これら「強み」「弱み」は内部環境と呼ばれますが、これに対して外部環境があり、それは「機会」「脅威」に分類できます。儲かるロードサイド店にするには、これらを把握し、強みの活かし方を検討する必要があります。

「強み」と「弱み」

 内部環境は自社で変えることが比較的容易な環境で、好ましい傾向は「強み」、好ましくない傾向を「弱み」として捉えます。この内部環境を洗い出す場合の観点として以下が挙げられます。

 ①人:経営者・店長や従業者の経歴・スキル・仕事に対する姿勢など
 ②物:販売している商品、設備機器類、店舗の立地など
 ③金:内部留保の大小、資金繰り、金融機関との関係性など
 ④情報(ノウハウ):受発信している情報の内容や頻度、保有しているノウハウなど

 これらの観点から「強み」「弱み」を検討します。
 また、「○○が多い」「○○が弱い」などは、何と比べてそう言えるのかが明確になっていないと、本当にそれが多いのか、本当にそれが弱いのかが分かりません。そこで、業界平均や競合他社の状況といった外部環境を探ることとなります。

「機会」と「脅威」

 外部環境は自社で変えることが困難な環境で、好ましい傾向は「機会」、好ましくない傾向を「脅威」として捉えます。この外部環境を洗い出す場合の観点として以下が挙げられます。

 ①競合:自店のライバルの品揃え、販促策、規模といった特徴など
 ②市場(顧客):顧客ニーズ、市場規模、商圏の人口動向など
 ③法律:自社に影響を及ぼす法改正や行政の動向など
 他にも、観点はありますが、まずは上記3点を検討し、さらに追加があれば「その他」という括りでまとめると良いでしょう。

 内部環境にせよ、外部環境にせよ、何が好ましく、何が好ましくないかという厳密な区分にこだわる必要性は高くありません。それよりもたくさんの量を出すことを意識しましょう。なぜなら、それにより「打ち手」が増えるからです。

戦略の練り方

 「強み」「弱み」「機会」「脅威」を洗い出したら、次の2点を検討します。

 ①活かせる「強み」、強化するべき「強み」は何か
 ②「強み」を投入できる「機会」は何か

 「弱み」はどうしても、本当にどうしても克服しなければならないのであれば、克服に務めますが、そうでなければ冒頭で述べたように「強み」の強化に努めます。「弱み」を受け入れ「強み」を強化することで、相対的に「弱み」を縮小させます。

 また、「脅威」は回避することを考えます。面と向かって戦おうとしても、外部環境は自社で変えることが困難な環境ですから、戦う余力があるのなら、それを「強み」の強化に振り向けるべきでしょう。

「弱み」から「強み」を見出す

 平成23年3月11日、東日本大震災が発生し、都内では自粛ムードが高まり、お花見や歓送迎会の中止が相次ぎました。このことは飲食店だけでなくタクシー業界にも影響を及ぼしました。当時タクシー運転手を50名程度抱え、都内でタクシー運行事業を営んでいたA社の売上は震災前の2分の1となり、売上の回復を望むA社社長よりご依頼を受け、弊社がご支援をすることとなりました。

 A社の現状を把握し、打ち手を検討するべく、社長に「強み」「弱み」「機会」「脅威」のヒアリングを行ったところ、結果は以下となりました。

 売上の激減で完全にネガティブになっていたA社社長は強み・機会とも「ありません」と答えました。そして「運転手の高齢化」を「弱み」と捉えました。A社に勤務する運転手の平均年齢は61歳ですから、確かに高齢化はしているわけですが、それをもって「弱み」と断ずることは妥当なのでしょうか。

 ドライバーの高齢化によって社内で起こっていることが、好ましくないことであれば、「弱み」ですし、好ましいことであれば「強み」でしょう。
 その点を明確にするべく、ドライバーの高齢化によって何が起こっているのかを質問したところ、高齢化によって、カーナビの操作が苦手とする運転手が多いという結果があることが分かりました。お年を召してくると、細かな入力作業が苦手になってくるということなのです。

 では、高齢化によって、社内で起こっている好ましいことを質問したところ、A社社長はしばらく考えた後に、流し営業の知識・経験が豊富なドライバーが多いことを挙げました。

 例えば、雨風が強い悪天候の日に流し営業をしており、進行方向にバス停があったとします。そのバス停には数人が、バスの到着はまだかまだかと傘をさしながら待っています。それを認識した運転手は、バス停の手前で減速し、ゆっくりといつでも停まれる速度で通過します。

 そうすると、手を挙げて停めてくれる確率が高まります。仮に手が挙がらなかった場合は、バス停を通り過ぎ、数メートルのところであえて車両を停め、後部座席のドアを開けます。これで、バス停で手を挙げそびれた方が「乗っていいですか」と歩いてくる確率が高まります。

 流し営業の経験・知識が浅い運転手だと、普通に素通りしてしまうのですが、経験・知識が豊富だと、捕まえてもらいやすい流し営業ができる、そして、そのような流し営業を行う方が多いということがA社の「強み」だということが分かりました。

 ここでのポイントは、「弱み」を挙げ、それを深掘りすることにより「強み」を見出したことです。よって、単に「強み」を探すのではなく、「弱み」を挙げることも「強み」探しに役立ちます。

外部環境の「機会」を見出す

 さて、私たちがタクシーに乗る手段は3つあります。まず、駅や施設で乗車を待つタクシーに乗る方法、次に電話でタクシー呼ぶ方法、そして街中を走るタクシーに手を挙げて停車してもらい乗る方法(流し営業)です。

 そして、A社社長の発言から、待つのではなく、顧客を獲得しに行く流し営業が一番効率的であるとことが分かりました。これがA社の「機会」となります(もちろん、その他にも「強み」「弱み」「機会」「脅威」はありますが、当コラムではポイントとなるもののみを取り上げています)。

 ここで、今後の方向性として、「流し営業の知識経験が豊富」という「強み」を強化し、「流し営業は効率的」という「機会」に投入する戦略を考えます。

 実はA社社長は、各運転手の1日の走行距離をエクセルで一覧にしていました。やはり、1日の走行距離が長い運転手の業績は高いわけですが、走行距離の長い順から並べ替えていただき、上位20%、中位60%、下位20%に分けてもらいました。当時の運転手数は約50名でしたので、上位10名、中位30名、下位10名に分けてもらいました。

 その上で、走行距離の個人目標を設定し、1日に何キロ走ったかを自己申告させるようにしました。ただし、その申告の結果を受けて評価するのではなく、目標達成したら承認を与えることとしました(なお、承認についてはこちらのコラムこちらのコラムで述べています)。

 上位10名の運転手は目標管理せずとも、勝手に走ってくれる方々です。下位10名の運転手は目標管理をしても、走ってくれる可能性は高くありません。よって、目標管理を全運転手にできない場合は、中位30名のドライバーを優先的に管理し、承認するようにしました。

目標管理による成果

 目標管理に取組んだことで、このA社には次のような変化が現れました。

 ①中位クラスの運転手の走行距離が伸びた。
 ②中位クラスに負けられないと上位クラスの運転手の走行距離が伸びた。
 ③下位クラスの運転手のうち半数は走行距離が伸び、他半数は退職した。
 ④新たに採用した運転手は、同社の方針に従い、流し営業に力を入れて働いた。
 ⑤上位クラスの運転手は、自身の流し営業に関する経験・知識を後輩に教え出した。

 震災の自粛ムードは徐々に薄れていき、結果としてタクシー需要は復活しましたが、多くの同業他社はそれまでに1年という期間が必要でした。ですが、このタクシー会社は4ヶ月で業績を元に戻しました。「戻った」のではなく「戻した」のです。

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