小売業における認知症を患っている顧客への上手い接客対応とは

接客

 人は、相手に受け入れられた、守られたと感じた場合に安心します。それは認知症を患った方も同様でしょう。そして、その対応は、他の顧客や認知症を患った方の家族へも影響を及ぼします。

 少子高齢化が進展し、本年1月現在、わが国の全人口に占める65歳以上の人口は28%を超えるまでになっています。国民の4人に1人は65歳以上という計算になります。
 当然、顧客のうち、高齢者がご来店なさる割合も増えることとなりますが、そのような方々の中には、認知症を患った方もいらっしゃるでしょう。

 当コラムでは、認知症を患っている顧客へどのように接客するべきか、それが業績にどのように影響するか、を見ていきます。

自転車にレギュラー満タン?

 私がガソリンスタンドで店長を務めていた頃の話です。ある日、自転車に乗ったご高齢の男性がご来店なさいました。そのご高齢の男性は、店頭にいた私の前に自転車を停め、言いました。

「レギュラー満タン」

 一瞬、からかわれているのかな、とも思いましたが、その男性からは、からかっているような雰囲気は感じられませんでした。そこで「レギュラー満タンですか?」と問い返すと「これ(自転車)にレギュラーを満タンにしてくれ」と言うのです。

 どう対応しようか迷っていると、その男性はその場でタバコに火を着けました。ガソリンスタンドは危険物を取り扱っていますので、火の着いたタバコを持ったこの男性を急いで待合室に連れて行って、お茶を出し、様子を窺うことにしました。

 すると、この男性が被っている帽子の側面に、住所・名前・電話番号が記載されていることに気付きました。そこで、私がその男性の相手をしている間に、他のスタッフにその電話番号をメモしてもらい、連絡をさせました。

 ほどなくして、ご家族が車で迎えに来て、この男性は認知症を患っていること、自転車に乗ることが唯一の楽しみであること、今朝も家族同伴でサイクリングに出かけたものの、少し目を離した隙にいなくなってしまったことを知らされました。
 そして、このご家族は、ご高齢の男性と自転車を車に乗せ、恐縮しながら帰って行きました。

 その後、ある食品スーパーがこのような事例を想定し、実施した研修に触れる機会がありました。

「おばあちゃん、美味しい?」がポイント

 その食品スーパーの研修では、従業員が認知症を患った顧客を演じ、未会計のパンを売場で食べ始めるという設定のもと、従業員がどう接するべきか、実際に演技をしてもらいます。

 「お客さん、何食べてるんですか!」

 従業員が、いきなりこのような声を掛けると、認知症を患った方は「これ、私のもの」と頑なになります。
 「そうじゃないでしょう、まだお金払ってないでしょう!」
 さらにこのように畳みかけると、「このパンは私のものだもん」とさらに頑なになります。

 これに対して、適切な対応の一例として以下が挙げられます。

 「おばあちゃん、美味しい?」

 このような声掛けをすると、認知症を患った方は、笑顔で「美味しいよ」と答えます。
 そして、「こんなところで立ったままじゃ疲れちゃうでしょう?ゆっくり座って食べましょうよ」と事務室へ誘い、その後の対応の糸口を探ります。

 ここで重要なのは、いきなり否定から入らず、その行為を認めること、そして、他の顧客の前で恥をかかせないことです。そしてこの対応が、副次的な効果をもたらします。

他の顧客の目、家族の目

 売場で顧客と従業員が揉めている場面を他の顧客が見た時に、その店舗に対して良い印象は持たないはずです。揉めている原因が顧客にあったとしても、です。

 なぜなら自身の買い物の場における雰囲気が悪くなるため、気分の良い買い物がしにくくなるためです。よって、まずは相手の行動を認め、他の顧客の目に付かない場所に移動させることが重要です。

 また、ご家族に認知症を患ったご高齢者を引き渡す際、ご家族は恐縮するものです。そのような心理的な負担を取り除くような、気軽な声掛け、元気づける声掛けは、家族の気持ちを楽にさせます。

 何かをしてもらうと、その人にお返しをしたくなる心理を「返報性の原理」と呼びますが、認知症を患った高齢者だけでなく、そのご家族への上手い対応は、今後の来店頻度や買物金額の向上に結び付く可能性が高まります。

 私たちも、時が来れば高齢者の仲間入りを果たします。もしかしたら認知症になるかもしれません。目の前にいる人生の大先輩の姿は、未来の自分の姿なのかもしれません。
 そんなことを意識しながら、認知症を患っている顧客の行為を認め、恥をかかせず、ご家族への気配りを忘れないような、大きな器を持って接していきたいものです。

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