感情に訴求し、購買行動を促す

コラム

その人からしか買わない顧客

 あるガソリンスタンドに、A氏という古参社員が勤務していました。そして、数は多くないながらも「ガソリン以外の商品はAさんからじゃないと買わない」という固定客がおり、A氏が彼らと接客すると、高額洗車なりタイヤなりエンジンオイルなり、ガソリン以外の商品が売れるのです。A氏以外の従業員が、どんなにその商品の必要性を訴えても、A氏から勧められないと買わないのです。

 また、そのガソリンスタンドの近隣には、テレビコマーシャルに登場する知名度の高いタイヤ量販店がありました。タイヤ販売を強化するにあたりそのガソリンスタンドでは、そのタイヤ量販店の価格調査を行い、同じサイズのタイヤなら1本100円程度安い価格に設定しました。

 顧客にタイヤの交換を促す場合に「すぐそこの量販店で扱っているタイヤと同じタイヤなら当店の方が安いんです。どうぞこの価格表を量販店に持って行って、比較してみてください」と言いながら価格が印刷されたチラシを渡すと、多くの顧客が、いくら安いのかを確認せず、その場でタイヤ交換に応じ、タイヤが売れていきました。

 A氏の事例にせよ、タイヤ販売の事例にせよ、顧客は理屈ではなく、感情的もしくは直感的に判断していることが分かります。

米国でのある実験

 カロリーの高い食品のみを撮影した写真と、同じ食品に小さく切ったセロリ3個を添えた写真を見てもらい、その食品は、何キロカロリーなのかを当ててもらうという実験があります。食品のみの写真を見た方の回答は、平均700キロカロリーなのですが、セロリを添えた写真を見た方の回答は、平均600キロカロリーでした。

 人間には、感情的もしくは直感的な判断と、理にかなった合理的な判断が共存しています。環境によって、また、その時の心理状況によって、感情的・直感的な判断をしたり、理にかなった判断をしたりします。

 ただし、消費者としての人間は、どちらかと言うと理にかなった合理的な判断よりも、感情的もしくは直感的な判断で購買を決定している印象があります。店舗スタッフのくどくどとした説明が嫌われる理由もここにありそうです。
 自店の販売促進策は、どちらの判断に働きかけるものなのかを意識することにより、効果的なものが立案できる可能性が高まります。

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