価格競争を回避するには

 以前、こちらのコラムで日次決算について述べました。この日次決算を推奨している方は数多い印象がありますが、都内町田市で家電販売店「電化のヤマグチ」を運営する株式会社ヤマグチの経営者、山口勉氏も日次決算を勧めている方のお一人です。そして、過去に山口社長から伺った取組みは、小売業として示唆に富むものでした。

 今回のコラムでは、同社がなぜ価格競争に陥り、どのようにしてその泥沼から這い出ることができたのかを見ていきます。

1.価格競争を回避するまでのプロセス

(1)価格競争の行き着く先

 山口社長は1965年から都内町田市で家電販売店を経営していましたが、その後、大手資本の家電量販店が町田に進出するようになり、気がつくと6つの量販店に囲まれるようになっていました。

 家電量販店は、新聞に安売りチラシを折込んできますので、負けじと電化のヤマグチも値下げをし、安さでは負けないことを訴求します。すると家電量販店も値下げをします。このようにして価格競争の泥沼に陥った結果、電化のヤマグチは卸価格で販売せざるを得なくなりました。

 しかし、量販店はその卸価格を下回る価格を打ち出してきたのです。さすがにこれにはついていくことのできなかった電化のヤマグチ。来店客は減少の一途をたどり、資金繰りにも苦労する日々が続くようになりました。

(2)顧客カルテに基づく営業

 さて、電化のヤマグチは自店で家電製品を購入していただいた顧客を管理するために顧客カルテを作成していました。このカルテは、購買日、購買機種、金額、住所、氏名、電話番号といった顧客情報が記載されており、当時約3万枚ありました。

 業績が低下し、資金繰りにも苦しむようになった当時の山口社長は、このカルテを1枚1枚見直しました。そして、このカルテは2グループに分類できることに気付きます。その分類基準とは、5年以内に当店で購買したか、していないか、という基準です。そして、5年以内に当店で購買した顧客のカルテは1万枚、5年以内に当店で購買していない顧客のカルテは2万枚ありました。

 これまではこのカルテに基づき3万件の顧客に月1回ご訪問し、家電の困りごとなどを伺うという営業手法をとっていましたが、これを5年以内に購買した1万人に絞り、月3回ご訪問することとしました。

(3)ザイオンス効果を営業に活かす

 そのターゲットに対して、山口社長は「高売り」と「裏サービス」という新たな戦略を打ち立てることにしました。

 まず、自店で扱う商品の価格設定を見直し、適正な利潤の得られる価格設定にしました。家電量販店より5万円高い価格に設定し直した商品もあります。

 さらに、高く売るには高く売る理由がなければ売れません。そこで全社員に家電販売とは関係のない「裏サービス」を行うことを徹底しました。

 例えば、顧客との雑談の中で、「1週間の予定で旅行に行くんだけれども、庭の植木に水をやる人が居ない」ということが分かれば、電化のヤマグチの社員が、無料で水やりを引き受けたいと申し出ます。

 また、別の顧客との雑談で「主人を亡くし、一人で夕飯を摂るのは寂しい」ということが分かれば、電化のヤマグチの社員が、ご自宅にお邪魔して食卓を囲みたいと申し出ます。この水やりや、食卓を囲むことが、家電販売とは無関係の「裏サービス」となります。

  頻繁に会うことによって好感を抱くことを「ザイオンス効果」といい、夫婦に職場結婚が多いことは、この効果が発揮されたものと言われています。また、テレビCMや新聞の折り込みチラシもこの効果を狙っています。

 これまでの訪問頻度を3倍にし、頻繁に顔を合わせるようになると、上述のような家電の困りごと以外の雑談をきくことができるようになりました。

(4)高い付加価値による家電製品の販売

 例えば、ご主人を亡くした奥さんが一人で夕飯を摂るのが寂しいので、ご自宅で食卓を一緒に囲むという裏サービスをしたとします。当然、ヤマグチの社員は、奥さんのご自宅にあがるわけですが、そんなことを何度かしていると、ちょっとした家電の質問が出る場合があります。

 そんな質問に答えていくうちに、実際にその家電を見せてもらったところ、買い替えした方が修理するよりも安上がりなことが分かりました。その際のやり取りです。

 奥さん「ヤマグチさんで買った場合、いくらするの?」
 ヤマグチの社員「うちは高いから家電量販店で買った方がいいですよ」
 奥さん「いくらぐらい高いの?」
 ヤマグチの社員「2万円ほど高いはずです」
 奥さん「2万円しか違わないのなら、ヤマグチさんから買うわ」

 ヤマグチの裏サービスの付加価値が2万円以上であることが認められたわけです。このようにして、「高売り」に見合う価値を「裏サービス」として提供していきました。これによって息を吹き返した電化のヤマグチは、繁盛店となっていきます。

(5)事業領域の策定

 さて、かつて私が拝聴した山口社長の講演で配布された講演資料はA4の紙1枚でした。その紙には、崖っぷちに立つ1本の松の写真がありました。山口社長はそれを受講者に見てもらいながら言います。

 「この崖っぷちに立つ1本の松の木。この木は、どんなつもりで立っているんでしょう。なんでこんな吹きっさらしの場所にたった一人で立っていなきゃならないんだ、なんて考えているのでしょうか。私はそんなことはないと思います。森林で多くの木と一緒に立っていた松の木の種子が風に流されて、崖っぷちに降りたんでしょうね。そしてここで芽を出し、根を張り、そして今に至っているんでしょうね。」

 「この松の木は置かれたところに、一生懸命、立っているんです。かつて電化のヤマグチは置かれたところで立とうとしなかった。家電量販店と同じ「価格」という土俵で勝負しようとしたところに間違いがありました。小規模なら小規模店なりの戦い方がある。置かれたところ、自分の土俵で自分なりに戦うこと。私はこれまでの高売り、裏サービス、そしてこの松の木の写真からこのことを学ばせていただきました。」

 電化のヤマグチは、戦う土俵を間違えて安易に大手資本との価格競争に走ってしましました。しかし、ちゃんとその土俵を降りました。

 そして、顧客の最新購買時期を基準にターゲットを絞り、適正価格のもと、付加価値を上げていったこの取組みは、「誰に」「何を」「どのように」という事業領域が明確になっています。電化のヤマグチの事例は、その重要性を教えてくれているのです。

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